「不動産投資は節税になる」 「サラリーマンこそ節税のためにワンルームマンションを持つべきだ」
不動産投資を検討し始めると必ずと言っていいほど耳にするこの「節税」というキーワード。しかし、その言葉を鵜呑みにして契約して後で「こんなはずでは…」と後悔するケースも少なくありません。
実際、節税効果はどれほどあるのでしょうか? 今回は、「年収700万円の会社員が、2000万円(築5年)の中古ワンルームマンションを購入した」という具体的なケースでその実態をシミュレーションしてみます。
節税のカラクリ「損益通算」とは?
まず、なぜ「節税」になると言われるのか。それは「損益通算(そんえきつうさん)」という仕組みがあるからです。
不動産投資で得た所得(不動産所得)が経費を差し引いた結果「赤字」になった場合、その赤字分を本業の給与所得から差し引くことができます。
その結果、課税される所得全体が減り、納めるべき所得税や住民税が安くなる=節税になる、というロジックです。
この「赤字」を作る上で最も大きな役割を果たすのが、実際にお金は出ていかない経費である「減価償却費」です。
シミュレーション:年収700万円の会社員Aさん
では、Aさんの例で計算してみましょう。
※完全に正確ではない場合があります。業者や物件、金融機関によって異なります。
購入者(Aさん): 年収700万円の会社員
給与所得控除や社会保険料控除などを差し引いた課税所得は約370万円と仮定。
所得税率20%+住民税率10%=合計税率30%
物件: 2,000万円(築5年 / 鉄筋コンクリート造)
土地:1,000万円
建物:1,000万円
ローン: 2,000万円(金利2%, 35年)
年間のローン金利(経費になる部分):約39万円(初年度)
家賃収入: 月8万円(年間96万円)
その他経費:
管理費・修繕積立金:年間18万円
固定資産税・都市計画税:年間10万円
賃貸管理手数料など:年間7万円
経費(金利除く)合計:35万円
減価償却費の計算
ここが最初のポイントです。建物は年々価値が下がっていくため、その価値減少分を経費として計上できます。
築5年(RC造)の残存耐用年数: (法定耐用年数47年 – 経過5年) + (5年 × 0.2) = 43年
年間の減価償却費 (建物1,000万円 / 43年): 1,000万円 × 0.024(償却率)= 年間24万円
不動産所得の計算
次に、年間の不動産所得を計算します。
収入
+96万円(家賃収入)
経費
ローン金利: -39万円
管理費・固定資産税など: -35万円
減価償却費: -24万円
経費合計: 39 + 35 + 24 = 98万円
【不動産所得】 96万円(収入) – 98万円(経費) = -2万円(赤字)
節税効果はいくら?
Aさんの場合、不動産所得で「2万円の赤字」が出ました。これを給与所得と損益通算します。
節税できる金額: 2万円(赤字額) × 30%(Aさんの税率) = 年間 6,000円
「節税になる」と聞いて始めた結果、年間の節税額はわずか6,000円でした。 ローンの元本返済(これは経費になりません)も考えると、手元のキャッシュフローはむしろマイナスになっている可能性すらあります。
最大の誤解:「青色申告65万円控除」は使えない
ここで、「赤字が少ないなら、青色申告をして65万円の控除を使えばいいのでは?」と考える方がいるかもしれません。
これは、不動産投資における最大の誤解の一つです。
結論から言うと、ワンルームマンションを1室買った程度では、青色申告の65万円(または55万円)控除は適用できません。
あの控除が認められるのは、不動産経営が「事業的規模」である場合のみです。税務上の「事業的規模」とは、一般的に「5棟10室」(戸建てなら5棟、マンションなら10室以上)という基準があります。
1室だけの経営は「事業」ではなく「業務」と見なされ、青色申告を申請したとしても、適用される特別控除は最大でも10万円までです。
他にも、交通費や飲食費、通信費、消耗品費の一部を不動産経営に必要な経費として算出する方法もありますが、何十万円も捻出できません。
確定申告は文字通り「申告」なので、自分で日常の買い物や飲食費を全て経費計上して数十万円の控除を作り出すことは可能です。
ただし、税務調査が入った場合に認められず、追加徴税となるでしょう。
税務調査が入らない可能性もありますが、将来の豊かさを求めて不動産投資を始めたにも関わらず、税務調査の不安を抱えながら生きていくのは元も子もありません。
結論:その「節税」、本当に魅力的ですか?
今回のシミュレーションでお分かりいただけた通り、年収700万円の方が一般的な中古ワンルームマンションを1室購入しても、工夫しない限り節税効果はほぼ無いか、あっても年間数千円~数万円程度というのが現実です。
(※新築物件は建物価格の割合が高いため、減価償却費が大きくなり、もう少し赤字が出るかもしれませんが、それでも節税額は限定的です)
もちろん、耐用年数を大幅に超えた「築古物件」を買い、減価償却費を意図的に大きくして赤字を出す「節税スキーム」も存在します。しかし、それは「税金の繰り延べ」に過ぎず、数年後に減価償却期間が終われば急激に税金が増えたり、売却時に多額の譲渡所得税がかかったりするリスクを伴います。
不動産投資は、あくまで「投資」です。 「節税」という言葉の響きに惑わされず、その物件が将来にわたって安定した家賃収入(キャッシュフロー)を生み出してくれるのか、資産価値が維持できるのかという「事業」の本質で見極めるようにしましょう。